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合鴨農法で役目を終えた
合鴨たちの新たな物語

合鴨農法では、稲を守るために合鴨たちが稲の害虫や雑草を食べる重要な役割を果たします。

このおかげで農薬を使わず、自然の力を利用した米作りが可能になります。

しかし、収穫が終わると鴨たちは農場を去り、さまざまな形で第二の人生を歩むことになります。

合鴨のその後の運命は大きく分けて次のようになります。

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①食用としての利用:

鴨肉として市場に出されることが多く、料理として幅広く利用されています。鴨料理は一般的に需要が高く、その濃厚な味わいが多くの人々に愛されています。

 

②ペットとしての飼育:

農家によっては、自分で飼い続けたり、ペットとして欲しい方に差し上げたりすることがあります。ペットとしての鴨は、特に子どもたちに人気で、その愛らしい姿が人々の心を癒しています。

 

今回は、高瀬さんの田んぼで活躍した合鴨たちが、ペットとして新たな人生を歩む事例をご紹介します。それぞれの合鴨がどのように暮らし、人々の生活に溶け込んでいるのか、その詳細をお伝えします。

山梨市に住むFさんと
吉ちゃん

山梨市で農業を営むFさんのもとで暮らすのは、オスの合鴨・吉ちゃん。吉ちゃんは2年前、高瀬さんからFさんの家に迎えられました。以前、吉ちゃんはオス同士の争いで怪我をしてしまい、苦労していました。鴨の繁殖期には縄張り争いやメスをめぐる競争が激しくなることがあり、これが原因で傷ついてしまうことが多々あるのです。しかし、現在ではそんな問題から解放され、Fさんの愛犬とともに穏やかな日々を過ごしています。

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吉ちゃんの日常はとてもユニークで微笑ましいものです。Fさんのお庭では、水を張ったタライで元気に泳ぎ、太陽の光を浴びながら水浴びを楽しむ姿が印象的です。さらに、吉ちゃんの特技は「餌キャッチ」。これはFさんの愛犬が餌を食べる様子を見て学んだそうです。投げられた餌を見事にキャッチする姿は、見る人を驚かせます。

吉ちゃんの大好物はうどんで、Fさんが作るうどんを愛犬と一緒に分け合って食べるのが日課です。Fさんはその姿を「本当に可愛らしい」と微笑みながら語ります。また、吉ちゃんは早朝、戸を叩いてFさんを呼び起こし、餌を催促することもあるそうです。こうした行動が、Fさんにとって日々の癒しと喜びをもたらしています。

Fさんは、吉ちゃんと愛犬を連れて散歩に出かけることが多く、特に公園や池で吉ちゃんを泳がせて遊ばせるのが楽しいひとときだと話します。フルーツ公園で過ごした日々は、Fさんにとって素晴らしい思い出となっています。

甲州勝沼で暮らすTさんと
2羽のピーちゃん

甲州勝沼でフルーツ園を営むTさんのもとで暮らすのは、2羽のオスの合鴨、どちらも「ピーちゃん」と名付けられています。この名前は、高瀬さんのお父さんが合鴨を「ピコピコ」と呼んでいたことが由来とのことです。

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ピーちゃんたちは、自宅敷地内の池に設けられた小屋で快適に暮らしていますが、自らの足で農園までお散歩するのが日課です。地域の方々の間でも、「お散歩する鴨」として有名になっています。お散歩の目的地は、農園内のミミズスポット。好物のミミズを探して楽しむ姿がよく見られます。

さらに、ピーちゃんたちは時々神社まで遠足のように散歩を楽しむこともありますが、その後、きちんと家に戻る賢さも持ち合わせています。

Tさんの鴨たちにはちょっとした冒険癖があり、たまに盆地に吹く強い風に乗って200~300m先まで飛んで行ってしまうことがあるそうです。「脱走ですね」とTさんは笑いますが、その背後には少しの心配も垣間見えます。「合鴨は飛べないと思っている方が多いかもしれませんが、実際にはそうではないんです」とTさん。確かに合鴨は多少飛ぶことができますが、その着地は決して得意ではありません。

陸地に降りる際、着地に失敗して転がり回る姿はなんとも愛くるしく、時に面白さすら感じられるそうです。ただ、この着地失敗が原因で怪我をしてしまうこともあるため、Tさんにとっては微笑ましいだけではなく、少し気がかりな一面でもあります。

そんな脱走事件が起きた際には、近所の方々が「鴨がこちらにいましたよ」とわざわざ知らせてくれることもあるそうです。このようなエピソードからも、Tさんの鴨たちが地域全体にどれだけ愛されているかが伝わります。夜になると、Tさんは鴨たちを小屋に入れて外敵から守るよう努めています。これもまた、鴨たちの安全を思うTさんの優しさの一環です。

昭和町で合鴨と暮らすSさんと
シロちゃん

昭和町にお住いのSさんは、自宅の庭にある池で鴨たちを飼っています。もともとペットショップで購入した合鴨を可愛がっていましたが、震災の時期に長年飼っていた鴨が死んでしまい、その後にもらった鴨たちも、野生動物の襲撃で数を減らしてしまいました。その後、高瀬さんから何羽か譲り受け、現在は4羽が暮らしています。

Sさんの最愛の鴨は、白い鴨「シロちゃん」でした。シロちゃんは特別可愛がられており、その名前は普段名前をつけないSさんにとっても例外的な存在でした。しかし、シロちゃんはキツネに襲われてしまい、Sさんは深い悲しみを味わいました。現在は、池のほとりにシロちゃんそっくりの置物を置き、その思い出を大切にしています。

また、Sさんの家でも鴨たちの間で餌場をめぐる縄張り争いが起こることがあります。これは鴨が群れで生活する習性から来るもので、仲間外れやいじめが見られることもあるそうです。現在飼われている4羽はすべてオスで、鳴き声が小さいため、Sさんにとっては飼いやすいと感じているそうです。さらに、来客時には鴨たちが騒ぎ出すため、「番犬ならぬ番鴨」としても役立っているとか。

これらの物語は、鴨がいかに人々の生活に喜びや癒しを与えているかを示しています。それぞれの鴨たちが、役目を終えた後も愛され、新たな人生を歩んでいる様子は、読む人に温かい感動をもたらすことでしょう。

 

高瀬さんちの卒業合鴨たちのほとんどは、このようにペットとして新たな鴨生を送ったり、道の駅南清里、花の森公園にて、スタッフや訪れるお客様に愛されその余生を過ごしています。

高瀬さんは想う。

「うちの田んぼから卒業した合鴨たちが、たくさんの方々に必要とされ、寄り添いあい、そこに居てくれるということは、ただそれだけのことで、何にも増して、嬉しくありがたいこと。」と。

photo & writing

​Ryo Yonekura

©2020 by 高瀬さんちの48

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