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​KAMO STORY - episode 01 -

これは合鴨たちの一つの物語。

合鴨がつないだ中学生たちの学びのエピソード。

 

山梨県の南アルプス市にある「子どもの村小学校・中学校」。

「自由な子ども」を教育目標として、自己決定、個性尊重、体験学習に力をいれる学校だ。

 

その教育の中で「0から食堂」という取り組みがある。

中学1~3年生の26名からなる「歴史館」と呼ばれるメンバーで食材を0から育てて調理し、食堂としてお客様へ提供するのだ。

 

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今回の「0から食堂」のメニューに使われているお米は合鴨農法で育てた新米だ。

このお米づくりに高瀬さんの合鴨がかかわっている。

歴史館メンバーがお米作りをするにあたって、自ら調べて合鴨農法を知り、高瀬さんへ農法の見学を申し出たのがきっかけだ。

収穫までの道のりはとても大変だったとメンバーは語る。

「最初に合鴨を高瀬さんからヒナの状態で22羽譲ってもらいました。

 

大切に育てようとしていましたが、ヒナはとても弱く、2日目ぐらいから餌の消化不良、日光浴不足などでどんどん弱ってしまい、半月ほどで22羽が全滅してしまいました。育て方がわからず悩み、今後どうしたらよいのか不安になりすごく悲しく辛い思いをしました。

 

それでも、あきらめず合鴨農法を続けてみようと思い、高瀬さんから再度、田んぼに放てる状態の合鴨を10羽譲り受け、お米と一緒に育て上げたのが今いる合鴨達です。その結果、無農薬のすごく良いお米が収穫できました。」

 

と目をキラキラしながら話を続けた。

「夏休み明けに、田んぼを見に行くと、明らかに他の田んぼと違って稲の背が高く茎が本当に太いことに気が付きました。葉の色づきも力強く稲の穂の垂れ方も明らかに違うことがわかりました。合鴨が田んぼを泳ぐことによって、稲に十分な酸素が供給されて、雑草を食べてくれることで稲にしっかりと栄養が行く効果を実感できました。

今までと違って本当に良いお米が採れたことにビックリです。

 

合鴨農法はメリットもありますが、大変なこともいっぱいありました。

 

稲の生育と同時進行での雛の飼育、エサ代もかかるし、週末の餌やりや小屋掃除をしてあげる必要もありました。

 

おいしい食材を食べるためには、その食材ができるまでの過程を知ってほしいと思いました。

合鴨農法はまだあまり知られていないですが、みんなに合鴨農法を知ってほしい!やってほしい!と思いました。今年の歴史館の食材の中で何がダントツ良いかと聞かれれば、【米】って答えます。」と自信満々に答えるメンバー。

一緒にお米を育て上げ、可愛がって成長した合鴨を食肉として加工するかどうかを、メンバーで話し合ったという。

食肉として加工をするということは命を奪うということ。

「命の選択」をする必要があったのだ。

メンバーと何度も話し合いをしている中で合鴨が「卵」を産み始めたという。

「合鴨達の暮らす環境をよくしてあげると小屋に卵を産んでくれるんです。今日、提供しているメニューの【ニコニコロコモコ】に使われている目玉焼きは、合鴨の卵なんですよ。」

鴨の卵は、鴨肉と同じで栄養満点。鶏卵に比べてDHAが豊富で3.3倍、ビタミンEが約2倍、ビタミンB1が約4倍で滋養強壮にもよいと言われている。

合鴨達から子供たちへの贈り物なのである。

話し合いの中で、子供たちは合鴨たちを屠畜をせずにそのまま暮らす道を選んだ。

学校に併設する飼育場所で合鴨たちが元気に走り回っている姿を見ることができる。

小屋だけでなく人工の池も作られ、気持ちよさそうに日光浴をしながら水浴びをしたりしながら過ごしている。

メンバーが近づくと餌をもらえると思い近づいてきて愛嬌をふりまく。

可愛くてずっと見ていても飽きない癒しも与えてくれるのだ。

さらに、子供たちは産んだ卵を孵卵器を使って孵化させようとしている。

子供たちの愛情をいっぱいうけた合鴨2世の誕生も楽しみだ。

 

「0から食堂」で提供される料理はお米や合鴨だけでなく全てのものに「命」や「力」を感じられる。

食材を生かすためのメニュー、調理方法、食器、カトラリー、おもてなしなどメンバー全員で決めながら、こだわりを見せた。

食べれる幸せと食品への「感謝」が色々な所から伝わってきた。

「いただきます」の言葉の意味をご存じだろうか?

一つは目は食事に携わってくれた方々への感謝。

二つ目は「〇〇の命を私の命にさせていただきます」という食材への感謝が込められている。

「ご馳走様でした」の意味はこうだ。

食材を揃えるのは大変なこと。

「馳走」は走り回るという意味で、食事を出してもてなすために奔走する様子を表す言葉。

すなわち大変な思いをして食事の準備をしてくれた方への感謝なのだ。

食べ物対しての感謝を伝える素晴らしい言葉なのである。

 

 

お金を払えば何でも食べ物が簡単に手に入ってしまう時代。

世界で捨てられる食べ物の量は年間25億トン。

この数字を知ってると知らないでは大きく違う。

人間の都合で無駄にされた食材や命の数。

この数字を見てどう思うのかを頭の中で考えて欲しいのです。

 

今、目の前にある食べ物は、多くの命と自然からの恵、かかわってきた人の力と時間があったからこそ食べることができるのだ。

生き物は食べなければ生きていけません。

ひとり一人が命の連鎖を知り、食べ物になる過程を知ることが大事です。

動物、植物、自然とふれあい、「人」が生きるためにその命をいただく。

それを知れば、食べ物を粗末にすることは絶対にできなくなるでしょう。

 

 

【鴨の水掻き】という諺がある。

意味はのんびりと水に浮かぶ鴨も、水面下では絶えず足で水を掻き続けている。転じて人知れない苦労があるとうことのたとえだ。

おいしい食事には、鴨の水掻きというように、沢山の命の連鎖や物語があるのを忘れてはいけない。

合鴨農法を通じて子供たちが「食」への感謝と命の尊さを学ぶことができたように、世界中の人たちが「食」への関心を深めていければ世界はよりよい方向に変わるだろう。

 

高瀬さんは子供たちの話を嬉しそうに聞ききながらその成長した姿を実感していた。

子供たちと合鴨達の物語はこれからも続いていく。

今後の子供たちの成長と活躍を見守り、見蕩れ続けていたい。

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photo & writing

​Ryo Yonekura

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